理事長挨拶

社団法人家庭医療促進協議会     理事長   佐野 潔

 

プロフィール写真

この度、一般社団法人「家庭医療促進協議会」を一般市民の方々の応援をいただき設立する運びとなりました。

当社団は、日本の医療が諸外国に比べ国民皆保険という優れた保険制度があるにもかかわらず、私たちが身近に受ける医療(プライマリケア)の「質」が保証されておらず「3分診療、たらい回し、検査づけ、薬づけ」の安かろう、悪かろうという状況にあることを憂い、また自由に医療施設・専門科を選べる自由度の裏返しとしてドクターショッピングを許してしまっているなどさまざまな矛盾を解決しようと考えてきました。

このような医療費の無駄、過剰診療、重複検査・処方、説明不足など、病院中心の分断された臓器専門医療が一般化してしまっている日本の状況は是正する必要があると思っています。 その背景には、公的保険による低い診療報酬や低い薬価価格による低収入を過剰検査・過剰処方で補填することで医薬業界がサバイバルしているという現状があり、つまり短時間診療枠にかに多くの検査・投薬をし、入院の適応も下げ濃厚入院医療で収益を上げることをせざるを得ない状況に陥っています。

甚だ残念なことに、国民にも安心であるといいことに、過剰診療、過剰投薬を招くような医療依存の悪い習慣が蔓延しています。 不要な頻回な検査や、皮膚保湿薬、湿布薬、糖鎖鎮痛薬、安易な効能薬、風邪薬がいい例で、保険でカバーされることをいいことに大量消費を希望し、残薬も増えるという状況が日常茶飯事で起こっています。医療本来の、話をしっかり聞き、患者本位で全身を総合的に診て納得のいく説明をしてくれる、検査も少なく薬より生活指導中心で、自分のことを最も知ってくれているかかりつけ医は臓器専門医療時代到来とともに激減してしまいました。今や、国民自身も医療を全て「検査依存」、「医者任せ」にし、病気の自己管理・予防に関心を持たなくなってしまったことなど、さまざまな問題が医療者側、国民側ともに存在します。

これら多くの問題の解決策として、私たち家庭医療促進協議会のメンバーは何を最初に変えることで連鎖反応が広がり全体が変わっていくかを考えてきました。そして到達した結論が、時間はかかるにしろレベルの高い「あらゆる病気に対応し、私たち患者を理解して全身を診てくれる家庭医療専門医」の養成を早急に推し進めることでした。病院医療以前に、身近で未然に病気を予防、管理、治療してくれるいわゆる「かかりつけ総合医(家庭医)」の養成です。信頼してなんでも語れる、分断医療の弊害から守ってくれ寄り添って医療をしてくれる家庭医の養成が今必要だと思っています。英国に見られるように医師の50%がかかりつけ家庭医として機能すれば、たらい回し医療、検査づけ医療、過剰医療、ポリファーマシー、低い国民の医学リテラシー、などの改善を図ることが可能だと思います。 全ての国民に、身近にかかりつけ家庭医療専門医を持ってもらうため、その養成を促進し日本の医療の質をさらに高みに上げたいと思います。

私たち家庭医療促進協議会は日本プライマリ連合学会や現場の家庭医療専門医の方々と協力して、国民の皆様にレベルの高い専門医としての家庭医の存在を知っていただくよう活動をしていきたいと考えています。皆様方のご協力を切にお願い申し上げます。

背景

今日本の医療は大きな曲がり角にきています。長年の歴史の中でかかりつけ機能を担ってきたはずの開業医は高齢で激減し、病院医療の分断化された臓器医療の専門家(循環器内科医、消化器内科医、糖尿病医、小児循環器科医、腹部外科医・・・)が開業してプライマリケア医療を支えているのが現況です。研修さえしていない分野の医療をサバイバルのためにせざるを得ない状況に医療の質のばらつきの原因が存在します。数十年前、銀行は開業・開院に多額な費用を安易に貸し出したため病院・医院が乱立し、人口あたり病床数は過剰となり自由標榜制のもと診療も無責任に拡大。「内科+小児科+得意分野」など、研修さえもしていない分野の看板をあげて質の保証のない「かかりつけ開業医療」を提供することで採算をとってきたわけです。残念ながら、日本の医学教育では全科を診療でき人を診るという医療の原点を実践する家庭医療、総合診療の教育はずーっと存在しませんでした。2018年、総合診療が19番目の専門分野として認定され研修プログラム、認定試験までできたにも関わらず、いまだに総合診療の標榜は許可されておりません。さまざまな既存機構の思惑から、開業医との差別化を恐れてか新たなアイデンティティーが与えられておらず、自由標榜制なのに専門医としての「総合診療」を標榜することができません。誠におかしな話です。欧米に遅れて50年、日本の家庭医療はいまだ一般国民はもちろん医療者の間でもいまだ正しく認知されておらず、どの医師が本当の家庭医(総合診療医)であるか全くわからない状況です。また総合診療にも、総合内科を中心とする病院総合診療と診療所ベースの全科対応の家庭医療とが混在しており、その診療範囲において両者は異なります。病院総合診療では母子・婦人医療、乳幼児医療、心の医療は研修において必須にはなっておりません。非常に誤解の元となっている点です。もちろん一般国民にはその違いの認識はありません。名称として総合診療という名は英国が使っているのみで他の国々では家庭医療をいう名称でプライマリケアの専門医としてのアイデンティティーを明確にしています。特に北米、豪、欧州、アジアでは50年近くも前から家庭医療は専門医療として認識されその数は増加中です。

今、日本の将来のために、家族全員のかかりつけ医としてその能力を発揮してくれる家庭医を私たちは養成していきたいと考えています。そのために、皆様に真の家庭医の役割や仕事内容を理解していただけるよう、さまざまな講演など啓発活動をしていきたいと考えています。日本の医療の質向上のため、「裸の王様」になってしまった日本の医師らに、過剰医療、ポリファーマシー、過剰入院、かかりつけ能力不足、などの問題解決を迫っていく必要があると思います。また、国に対しても提言していかねばなりません。医療はブラックボックスではありません。医療の中身を吟味し、正しく評価をすることは非医療者にとって「タブー」ではありません。私たちはもっと賢くなり、医療をオープンに語り、外部評価、変革を許さない現況を打破せねばなりません。

家庭医療、総合診療の認識を深め、自由標榜制を廃止し、家庭医療・総合診療を専門分野として確立させることで、この国の医療を国民主体の世界に誇れるものにしていきたいと考えています。